著名人からのメッセージ

「隣人祭り」は、都市生活の“解毒剤”

日本における「隣人祭り」の支援者のひとり、分子生物学者の福岡伸一先生。ご自身もコンシェルジュとして、ご自宅で隣人祭りを開催されています。さて、そのご感想は?

気軽に話すためのテーブルを置き、
「地縁」を回復するのが隣人祭りです。

先日、私の住むマンションで隣人祭りを開催しました。100世帯ほどが暮らすうちの30〜40人の住民が参加し、日曜の午後のひとときを過ごしました。そのときふと思い出したのは、コミュニケーションの基本に「血縁」「地縁」「社縁」というものがあるということ。

「血縁」は家族や親戚、「地縁」は住んでいる地域、「社縁」は社会との、あるいは働く会社との縁といってもいいでしょう。この3つの縁のうち、とくに都会では「地縁」、つまり地域のコミュニケーションが希薄になっていることは、私がいうまでもなく誰もが感じていることだと思います。そして、その誰もが、内心は住民どうしのコミュニケーションを求めていたんだと実感したのです。きっかけや方法がわからなかっただけだ、と。私を含め、そういう方々にテーブルを与え、椅子を差し出すのが隣人祭りなのです。

若い人たちには、mixiなどのインターネットを窓口にしてコミュニケーションを図る人が少なくありませんが、仮想世界でつながっているだけでは真のコミュニケーションをとれていることにはなりません。そんな、バーチャルリアリティに浸食されている都市の暮らしの“解毒剤”としても、隣人祭りは有効だと思いますね。

食べ物は持ち込み、出入りも自由。
それが、隣人祭りのいいところ。

私たちの隣人祭りは、マンションの玄関ホールで行いました。若干狭いスペースだったのですが、駐車場前や倉庫前などでは雨や炎天下の場合に困るだろうと。ペリファンさん(フランスでの隣人祭りの発起人)もおっしゃるように、狭いからこそ緊密に話せるし、玄関なら通りすがりの住民が気軽に参加することもできますから。

隣人祭りは、「食べ物、飲み物を各自で持ち寄って」と提唱していますが、これが意外と難しいのです。他の参加者と値段的にも質的にも釣り合いが取れているか、確かに気になるところではあります。今回は、管理人さんらコアメンバーがおやつや飲み物を買い出し、テーブルに並べ、それにプラスして、参加者の持ち寄りを分け合うというかたちを取りました。

当日の進行プログラムは設けていません。段取りを決め込むとかたい集まりになりがちですから。初めに、隣人祭りのコンシェルジュとして私が簡単に挨拶し、フルートが吹ける方がいたので一曲演奏していただき、気分が和んだところで談笑が始まるという流れです。子どもから若いご夫婦、ご老人、住民の来客やマンションのご近所の方まで、出入り自由で集い、会話を楽しみました。

日ごろの疑問の“答え合わせ”から、
会釈の次のコミュニケーションが始まる。

階下の住戸の方と初めて会話したという人もいました。あるいは、上の住戸の子どもが走る音が気になっていたけど、「いつもうるさくしてすみません」「いいえ、元気な証拠ですよ」といった会話で解消されたり。私も同じ階の方から、「どこかで見た名前だと思っていましたが、『生物と無生物のあいだ』の福岡先生でしたか」と互いの職業を知り合ったり(笑)。それぞれのテーブルで、住民の皆さんが日ごろから抱いている数々の疑問の“答え合わせ”が行われていましたね。答えがわかれば、住民のあいだに線が結ばれ、翌日からは会釈だけでなくもう一歩踏み込んだ会話ができるようになる、それが隣人祭りの効果なのです。 とはいえ、みんなが仲良くなるわけではなく、会話にぎくしゃくする場面もあるだろうし、うまくとけこめない方もいるかもしれません。そういう場合には、話し上手な方が席に入るとか、ポツンと座っている方に声をかけるとか、意図的なコミュニケーションづくりも必要でしょう。

何はともあれ、隣人祭りを開き、ご近所さんが互いに顔を合わせる場を持つことが大切。回を重ねる度に、一つ一つの小さな輪が大きな輪に広がっていくと思います。「また、開きたいね」と帰って行く方、たくさんおられましたよ。

(原稿/松井健太郎)

2008年8月に開催された「隣人祭り」in ロハスキッズセンター クローバー

福岡伸一 ふくおか・しんいち
1959年東京生まれ。分子生物学者。青山学院大学理工学部化学・生命科学科教授。“生命とは何か”という永遠の命題を問い直した著書『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)が60万部を超えるベストセラーに(2007年度サントリー学芸賞を受賞)。近著に『動的平衡─生命はなぜそこに宿るのか』(木楽舎)。『世界は分けてもわからない』(講談社現代新書)を刊行予定。
(2009年4月現在)

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